東京は朝から冷たい小雨が続いていました。
11月26日、私はコロナ蔓延以降初となるコンサートへ足を運びました。演目は東京オペラシティで行われたクリスティ&レザール・フロリサンによるバッハのヨハネ受難曲です。長きにわたりバロック・オペラやフランス古楽音楽において求心力を発揮してきた重鎮とその主兵たちだけに、今回の来日で唯一の公演になったこの公演でどのようなバッハを聴かせるか期待が高まっていました。
J.S.バッハは1708年以降、ヴァイマル公ヴィルヘルム・エルンストの宮廷オルガニスト兼宮廷楽師として活動していたのですが、1714年3月2日に宮廷楽師長に昇進しました。これにより、「毎月1曲の新作」を提供する義務を負うことになります。その第1作として1714年3月25日《天の王よ、歓迎します》BWV182は作曲されました。このカンタータは棕櫚の日曜日のために上演されました。キリスト教では四旬節(謹慎期間)の最後にあたる週、復活祭の前の週を「聖週間(嘆きの週)」と呼びます。ガリラヤ地方で宗教活動をしてきたイエスが、いよいよエルサレムに入ってきた時に群衆は棕櫚の枝を振り、枝を道に敷いてイエスを迎えたという故事が残っています。BWV182の台本はキリストが十字架に磔になる受難と分かちがたく結びついている内容になっています。
NAXOSレーベルの日本語帯は、いつも決まって大袈裟で、スーパーの安売り広告のようにカジュアルです。それがクラシックっぽくなくてとても面白いなと思っていました。私が所有しているミュラー=ブリュールのロ短調ミサのCDは右のジャケットの版ではなく、DAS MEISTERWERKと題したシリーズから出された一枚で、グリューネヴァルトの祭壇画がプリントされたバージョンのものです。その帯には「晴朗の極み。アンビリーバブルな美演!」と謳われています。このチープな表現がNAXOSらしくてたまらないのですが、演奏を聴くとこの「晴朗」「美演」という謳い文句が言い得て妙だと思える、そんな演奏になっているのです。