ここまでインターネットが発達すると、逆にそこに欲しい情報が無い時に本当に困ってしまう。2014年夏現在、作曲家サント=コロンブを検索しても大した情報は期待できない。この作曲家については、生没年も出生地もわかっていない。顔もよく分からない。17世紀フランスで隠遁生活をしながら娘と息子とともに音楽をしながら生活をしていたということくらいがおぼろげに知られている程度である。
私がサント=コロンブを初めて聴いたのは、2年くらい前だったと思う。ある朝、たまに合わせるFMを流しながら車を運転していると、ヴィオールのメランコリックで深く落ち着いた音色が聴こえてきた。suzukiの軽自動車にである。あまりに美しかったが、未だかつてそんな音楽を聴いたことがなかったので、調べる必要があった。しかし、あまりに情報がないので頓挫。しばらくほっぽっておいた。
それが最近、御茶ノ水のユニオンに行ったときにサント=コロンブのCDを発見。迷わず購入したのがきっかけとなり少し調べを進めるにいたったのである。ちなみにその演奏はJ.サヴァール&Wクイケンのものだ。サント=コロンブには《2つのヴィオールのためのコンセール》というタイトルの作品が67曲現在に伝わっている。ここにある「ヴィオール」なる楽器はチェロに似た形をしているが、板が薄く設計されているため弦の張力が弱く、独特の渋く陰りのある、または温か味のある音色が特徴とされる。さらに、フレットがついていて、弦も6~7本張られている。イタリア語でいうところのヴィオラ・ダ・ガンバだ。
このヴィオールはバロック時代、ヴァイオリン属とは別にイギリスやフランスで流行した。イギリスではヴィオール属だけからなるアンサンブル(コンソート)が結成され、H.パーセル.(1659ー1695)なども作品を書いている。
フランスでは、なんと言ってM.マレ(1656-1728)が有名でソロのための作品をかなり残している。そして、サント=コロンブはそのマレの師匠であるということがわかっている。サント=コロンブは1630年くらいに生まれて1700年くらいには亡くなっていると推論されている。とすると、ルイ14世統治下で音楽の指導的立場にいたイタリア人J.B.リュリ(1632ー1687)と同世代というわけだ。リュリは王のために絢爛豪華なバレエや舞台音楽を作曲した。次世代のラモーやカンプラはその系譜で語られることが多い。シャルパンティエも違うようでいて路線は似ているような気がする。
一方でサント=コロンブはあまりにも音楽の性質が違っている。彼の音楽を著しく新鮮なものにしているのは、この時代においてもなお通奏低音を置いていないという点が大きいように思う。フランスでは1650年ごろまで通奏低音を受け入れないという姿勢があったようなのだが、サント=コロンブはその古い伝統に沿って作曲を進めた。彼の音楽に常に感じられる静寂が持っている強い説得力はこの技法によるところが大きい。さらにポリフォニーの美しさや舞曲的リズムの扱いにも特筆すべきところがある。コンソート第41番に《繰り返し》という題名の作品があるが、そのメヌエットの美しさはバッハの無伴奏パルティータに妙に似ている。
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