《ガブリエル・フォーレ 人と作品》(1960)を読んだ。この本の著者である音楽評論家
エミール・ヴュイエルモーズ(1878-1960)という人はその交友関係が凄い。パリ音楽院ではフォーレに学び、ドビュッシーの友人で、ラヴェルとも生徒同士の関係だったという、フランス近代音楽の内部を知るまさに重要人物なのである。本書におけるヴュイエルモーズの文体は暗示的で詩的、個人的なフォーレ愛が滲み出ている。楽曲分析のイマジネーションが大変豊かで、こぼれ話もどれも興味深い。そこでヴュイエルモーズの言葉を助けに、これまで聴いてこなかったフォーレの音楽のいくつかを集中して聴こうと思い立ったのである。
今回は『主題と変奏 嬰ハ短調』作品73。作曲は1895年だからフォーレがちょうど50歳のときの作品。冒頭主題はヴュイエルモーズいわく「完全無欠の古典主義」で、重々しい感じ。続く11の変奏は嬰ハ短調を堅持してじりじり進行していく。気分の交替がはっきりしている部分もあるが、第9変奏あたりまで来るとフォーレのセンスがいよいよ全快となる。再びヴュイエルモーズの言葉を引用しよう。
「それはこの上ない気分にいる詩人が天に舞い降りるのを見るような、清澄さ、大らかさ、そして優しくなだめるような気分の中に発展する」。
最後の最後、第11変奏でフォーレは調を嬰ハ短調から嬰ハ長調へと変化させ、予期せぬ明るさの中で曲は閉じられる。慰めと深い落ち着きに満ちた世界が最後に用意されていたのだ。あまりにも伝統的な作曲形式である主題と変奏をフォーレはハイセンスな自らの表現へと応用してしまったのだ。
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