ロクリアン正岡の世界 2014

何の因果か今年はロクリアン正岡氏の新作を3作も聴いた。

 

弦楽オーケストラ曲第一番「異次元航路」(3/12)

・ヴィオラ独奏曲「思念三態」-"オノレ!サイコパス鬼女"(10/23)

弦楽五重奏曲「残忍性の為の独房/霊性の為の要塞」(10/30)

 

タイトルだけ見れば少々気が引けてしまうが、音楽の実態はというと純音楽的で、伝統的なクラシック音楽の延長上にしっかりと立脚しているように感じる。

 

氏は哲学者である。その思想を知りたければ、氏のHPを覗けばたくさん載っているので読んでみればいいのだが、はっきり言って難しいのでそこから作品を解釈しようとするとなかなか大変なことになる。

 

氏は創作活動には「抵抗」が必要だという。弦楽五重奏曲における「抵抗」の素材は、今年7月に佐世保で起こった高校生による解剖殺人である。氏の軋むような摩擦の多い音楽は、人間の内奥に潜む汚れとか悪を照らし出してみせる。でも不思議とグロテスクでなく、むしろ本質的で、希望を捨てていない。これは昨今の事象と正面から向き合っている貴重な芸術ではないだろうか。

 

決定的に現代音楽の資格を有していると思う。大切なことは見せかけの手法や技法がまったくない現代音楽ということ。聴き手の感性を揺さぶるところまでもっていかないとダメなのだと作者は語っていた。自らの作品をベートーヴェンの後期の弦楽四重奏とか、シェーンベルクの浄夜と同列に扱うのも自然なことで、その自信が気持ちいい。実際、ドラマティックで簡潔な構成やポリフォニックな書法における透明感と軋む表現はクラシック音楽である。

来年70歳にならんとするロクリアン正岡氏の芸術がどこまで行ってしまうのか興味は尽きない。