ヴェックマンとフローベルガーを聴く

J.カロ《戦争の惨禍》
J.カロ《戦争の惨禍》

この度、レオンハルトが弾くM.ヴェックマンとJ.J.フローベルガーのCDを手に入れた。17世紀ドイツを代表する鍵盤の名手である2人は仲のいい間柄で知られており、この時代の潮流を切磋琢磨しながら形成していったようなのだが、私は彼らの音楽を聴くのが今回が初めて。

さて、一体どんな音楽なのだろうか?

M.ヴェックマン(c.1616-1674)はテューリンゲンのニーダードルラ生まれ。地図で確認するとそこはドイツのど真中だ。前半生をシュッツの活躍していたドレスデンで宮廷礼拝堂オルガニストとして送り、1655年以降はハンブルクの聖ヤコビ教会オルガニストに選出され、死ぬまで職に就いていた。

一方、J.J.フローベルガー(1616-1667)はシュトゥットガルト生まれ。ドイツの中でもずっと南になる。1637年にウィーン宮廷オルガニストに任じられる。その後はイタリアに留学。さらに、1652年にパリに赴き、D.ゴーティエやJ.C.シャンボニエール、L.クープランなどの知己を得た。

 

国内に留まりながら、シュッツやプレトリウスから、イタリア音楽やスウェーリンクの流儀を学んだヴェックマンと、EUを飛び回ったフローベルガーは、17世紀版バッハとヘンデルといった感じだ。

でも、さらに思うのは、三十年戦争(1618-1648)の時代に、北のヴェックマンも、南のフローベルガーも新・旧の文化圏を縦横無尽に活躍していた事実である。人口が1800万から700万に減少し荒廃したドイツの中で、ブルボンvsハプスブルク、新教徒vs旧教徒という緊張した時代の空気を彼らの年表から感じることは出来ない。

 

さてさて、肝心の作品だが、レオンハルトのアルバムを聴く限りではあるが、ヴェックマンは劇的で表出的な面が特徴のようだ。3つのいずれも短調のトッカータは、速いパッセージと細かい連打で強靭な表現だと言えよう。それに比べるとフローベルガーは詩的でやわらかい。ハ長調のカプリッチョは半音階の不安定な主題がメランコリーであるが、繊細すぎるということはなく、全体として安定している。なお、使用しているが楽器は、J.リュッカース1624年モデルのレプリカで、ピッチは392Hzを採用している。1996年レコーディングのヴィヴァルテ・シリーズであるだけに、美しい音色を堪能できる。特に、低音の質感がクリアなのがうれしい限りだ。