ベートーヴェンの交響曲はどれもほどほどに好きです。気が向いたときにその日の気分にあったナンバーをかけてみます。ひとつの楽章だけ聴く時もあれば、全曲かける時もあります。どの演奏で聴こうかいつも迷うのですが、ハイティンクとロンドン交響楽団の演奏を選ぶことが多いような気がします。そもそもそれほど多くCDを持っているわけではないのですが、集める気が起こらないのもこのハイティンクの演奏が私にとって十分に納得のいく内容であることが大きな要因になっています。
この演奏の特筆すべき特徴は、フレージングは瑞々しく繊細なのに、構成が堂々と引き締まっている点、つまり「細部」と「全体」のバランスが絶妙な点にあるのだと思います。
フレージングについては、動機の積み重ねが多いベートーヴェンの楽曲ですが、連続する旋律のニュアンスがどれも微妙に違っていて、有機的に盛り上がったり、静まったりしているのがわかります。特にヴァイオリン群のアンサンブルは素晴らしいですね。旋律の歌いまわしは語尾を短く切ってメリハリが効いています。一方でコントラバスの音を際立ってマイクが拾っているので立体的な造形美が感じられます。古典的なプロポーションの確かさを踏まえれば、それはまるで古代彫刻のようです。
テンポはどのナンバーも快適です。「速い」楽章はあっても「速すぎる」とは感じない。同様に「ゆったり」と感じても「遅い」とは思わない。旋律の歌わせ方次第で伸縮する速度ですが、全体としてみれば安定した基準のスピードが楽章を貫いています。十分に現代的な雰囲気が感じられる要因はこの快適なスピード感にあるのだと思います。
あと、ロンドン交響楽団の明晰な質感のアンサンブルが素晴らしいです。それぞれの楽器の響きを混ぜたり溶け合わせたりせずに、分離させてくっきりと鳴らしています。特にティンパニとホルンの活躍には耳を奪われます。決して大袈裟に鳴らしているのではなく、自然な間で入ってきて十分に音楽的です。
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