第2番モデラートの出だしから深く心を揺さぶられました。くぐもった質感、憂鬱な気分からゆったり生成されていく弦楽の重なり合いが、緊張感を保ちながらいずれ歌のような旋律へと変容していきます。何かの断片だと思っていたものが、琴線に触れる旋律だったのかと気づく瞬間が訪れた時の感慨をエルサレム弦楽四重奏曲の演奏はもっとも素直に感じさせてくれます。次のアレグロ・モルト・カプリツィオーソは激しい音楽ですが、濁った響きは作らず、ある節度の中で疾走していきます。そして、最後のレントを迎えます。地を這うように、命の灯が消えていくような霊妙な世界を、静謐なアンサンブルで語りかけています。
私はこの第2番を聴いて純粋に感動しました。エルサレム弦楽四重奏曲はとても暖かく音楽を語りかけてくれる人たちなんだと思いました。彼らは1993年にエルサレムで結成されたということですから、この録音時点ですでに22年間の活動歴があるわけです。長年の活動は確実に表現の次元を高めていると思います。このバルトークに彼らの個性が刻印されていると言えるでしょう。正確無比で同質の音楽性を保つ4人の響きの方向性は、「立体的で前向きな暖かみ」なのだと思います。音色がきつくならず、それぞれの奏者が明るく太めの質量感のある音色で奏でています。その春の陽気のような気分が、第2番の静謐なロマンティシズムと重なった時、他には聴かれない作品の姿が立ち上がってくるのです。
では、第2番以外の番号はどのような演奏になっているか聴いてみたのですが、何か物足りないものを感じました(第1,3,5番 HMM902240)。鋭さやスピード感が欲しいと思う部分でエルサレム弦楽四重奏曲は、やや慎重なテンポ感で克明に楽譜を現わしていき、鮮やさを失わないように進行していくのですが、やや健康的な優等生といった印象を持ってしまったわけです。バルトークの芸術とは、もっと切迫した密度が必要ではないかと自問しました。また、演奏効果の面からはカタルシスは得にくい演奏とも思えます。でもそのくらい、エルサレム弦楽四重奏曲は純音楽的なアプローチを徹底して保持しているとも言えるのです。
エルサレム四重奏団
アレクサンドル・パヴロフスキ(第1ヴァイオリン)
セルゲイ・ブレスラー(第2ヴァイオリン)
オリ・カム(ヴィオラ)
キリル・ズロトニコフ(チェロ)
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