「亡くなる1975年に書かれた第3番は、非常にプライベートな音楽で、最終的にブリテンが行き着いたところが見られる傑作です。ただ、晩年にアマデウス弦楽四重奏団はじめ色々な人から作曲に対しての強力なプッシュがあって実現したもので、それがなければ生まれていなかったかもしれません。」(エルデーディ弦楽四重奏団インタビューより)
ブリテンの弦楽四重奏曲第3番作品94は本当に素晴らしい作品だと思っています。普段他のブリテンを聴くことはほとんどないのですが、この作品に関しては時々じっくりと味わいたくなります。ブリテンの音楽はどこかイギリスの風土を感じさせ、古典的な様式感を保ちながら、20世紀が抱えている悲惨な歴史や現代音楽が辿ったシリアスな響きを伴う側面を、きちんと聴衆が受け止めることのできる音楽として成立させ、純粋に感動させる力を持ているのだと思うのです。
第3番の第1楽章は、どこか不安で震えるような旋律のポリフォニーでゆっくりと始まります。ピチカートが随所で鳴り緊張感が漂いますが、短い旋律が次々を連続していき徐々に力感が増していきます。第1楽章を聴くだけでも、この音楽に大切なのは「静けさ」なんだと十分に理解することができると思います。確かにシリアスな側面はあるのですが、歌謡性や親しみやすさがむしろ重要な側面だと気づかされます。
第2楽章は毅然としたリズムで、3拍子でしょうか随分とはっきりした輪郭の様相になるのですが神経質な音の重なりのため、ここでも緊張感は持続します。
第3楽章は高音域のヴァイオリンがゆっくりと、まるで鳥のさえずりのように旋律を奏でていきます。幻覚でも見ているかのような、現実感のない世界です。
第4楽章はブルレスケと書かれています。私はブルックナーのスケルツォに特殊奏法が加わったような印象を受けました。
終楽章はチェロの哀愁を帯びた旋律から始まります。ここでもやや迷っているような雰囲気があります。そしてパッサカリアに移行するのですが、ここでようやく頼りないけど信用できる素朴な旋律が登場し、少しずつ前向きに、ポリフォニックに、音楽は結末へ向けて歩み始めるのです。この例えようのない美しさは他のどの音楽にもない特筆だと言えます。私はブドロスキーの演奏でしか聴いたことがないのですが、彼らの演奏の真摯な姿勢にも心を打たれました。
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