読書『自分の小さな「箱」から脱出する方法』アービンジャー・インスティチュート著(大和書房)

 この本は仕事の人間関係に困っていた私に妻が勧めてくれた本です。あらすじはこうです。架空の会社であるコネチカット州ザグラム社に勤めることになった「わたし」は、勤務して間もなく同僚とのコミュニケーションがうまくいかず、家族関係にも悩んでいます。入社して1カ月、「わたし」はザグラム社の名物だという「バドのミーティング」なる研修を受けることになります。ザグラム社の経営戦略上の成功の鍵がこの研修にはあるというのですが、これまでの自身の行為に関して自信をのぞかせる「わたし」に対し、バドは「君には問題がある」とミーティングを始めるのでした。研修に対して疑心暗鬼の「わたし」の反応は如何に。

 この話のキーワードは「自己欺瞞」です。人は「自分は頑張っている」と思い込んで行動していると周囲で起きる不都合な出来事に対して、周りが悪いとか運が悪いだけと責任を放棄するか問題を直視しないか、事実を自分の価値観で歪めて都合よく解釈し、自己を正当化しようとします。つまり、本当の問題に気づけない状態が発生するのです。これが「自己欺瞞」です。字のごとく自分を欺いている状態です。この本では「自己欺瞞」を「箱の中に入っている状態」と表現することでビジュアルとしてイメージしやすく言い換えています。「箱」の中に入っていると人は特権的な立場だと思い込み、ある意味で居心地がいい状態になります。しかし、実際は自分を裏切っているというわけです。本来は「みんなと仲良くしたい」「協力した」「助けてあげたい」と思っています。しかし、「箱」に入ってしまうと本心とは正反対に作用し、自分が正しい、他人が悪いとなってしまいます。厄介なことに「箱」に入り続けるとその「箱」を自分の性格だと思うようになります。そして誰かが「箱」に入ると周りの人もたちまち「箱」に入ってしまいます。負のパラドックスです。こうして「箱」は連鎖を続けていくのです。

 

おそらくは誰もが陥っているであろう人間の心の動きのメカニズムを、リアリティのある物語とわかりやすい文体で説明してくれる本書は、私自身とても共感できましたし、普段のコミュニケーションを見直すきっかけになりました。ただ、「箱」から脱出するためには、自分を律し、客観的で俯瞰的な視点に立てる精神状態を保つ必要があるのではないかと思われ、そう簡単に実践は出来ないのも事実のように考えていまいました。心と人の話ですので少しずつ実践したいと思います。

著者:アービンジャー・インスティチュート

監修:金森重樹  訳:冨川   出版:2006年10月